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「鶴丸」塗装復活にやや違和感 [航空]

JALが鶴丸を復活させるとのこと。
今日、実機のデザインまで発表された。
http://mainichi.jp/select/wadai/graph/20110119jal/
どちらかというと直近の旧塗装に近いが、デザインとしてみれば今のJAS合併後の意味不明な塗装よりはましだろう。今の塗装は短距離のリース機材に適当に社名を入れたレベルの安っぽさがある。尾翼を塗り替えるだけだから、手軽な改装だ。重整備を待たずに全機体を塗り替えてしまうかもしれない。

けっきょくは単純に日本エアシステム統合前に戻るということで、先述の旧JAS機材の強引な引退と同じで、JAS色を徹底的に消したいようだ。まあその事の善悪は言うまい。個人的にはJASの消滅は残念だと思うが。
そもそも塗装については日本エアシステムも旧東亜国内航空も大してこだわりがあったわけではなく、エアバスA300を採用した際にメーカーの見本塗装をそのまま採用してしまったといういい加減さだ(デザインとしては優れているとは思うが)。メーカーの見本色や都営バスの塗装をそのまま採用する富山地方鉄道の路線バスあたりの安直さだ。だから、別にJAS出身者はそもそも塗装にこだわりのある人はいないだろう。

問題だと思う点はむしろ自社の歴史への認識のあいまいさにある。
旧塗装がなくなる時の説明がなかなか詳しい。
http://www.jal.co.jp/tsurumaru/
実はJALに1970年に747が導入されるまで、尾翼に鶴丸は描かれていなかったのである。全日空が1960年代からモヒカン塗装だった(実際はトライスター導入時から)と誤解している者が多いのと同様である。


1960年代にDC8が世界を看板機材として飛び回っていた時代は鶴丸は前のドア脇に描かれているだけだったのだ。1960年代までのJALは欧米、かつ第二次大戦の戦勝国以外で唯一、世界一周路線の一環としてアメリカ国内線と大西洋横断路線の運航権を得た唯一の航空会社であり、安全運航体制、サービスも含めれば文句なく世界一の評価を持つ会社だったといえるだろう。
(今でも欧米線のファーストクラスに関あ。しては、日本人より英米人の評価が高いようだが)

だがジャンボ導入以降は経験あるDC8のパイロットを次々とジャンボに機種変更させたために、DC8の運行体制が急速に劣化し、営業運行でニューデリー、ボンベイ、モスクワ、アンカレッジ、クアラルンプール、羽田と全損事故を続ける悲惨な時代が1970年代であった。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E8%88%AA%E6%A9%9F%E4%BA%8B%E6%95%85
サンフランシスコ着水事故などは『沈まぬ太陽』で描かれたように、むしろ美談であり、9機中3機を訓練中に墜落させたCV880は機体の欠陥として、JALのイメージ低下につながらなかったが、もう言い逃れはできなくなった。海外の事故ばかりだったこともあり、国内では大して評価はさがらなかったが、世界的な安全評価は地に落ちた。当時は、国際線、国内幹線のみの運行のため、事故率は一気に世界の主要航空会社で最悪のクラスに移行する。(御巣鷹山ばかりがたたかれるが、これに関してはボーイングが修理の欠陥を全面的に認めて経済的な補償を肩代わりしており、非難の材料とはならない。)

尾翼の鶴丸というのは歴史的に見れば、1960年代の高いイメージとうって代わって、経営の失敗と事故の象徴であり、とても評価には値しないと私は考える。
だいたいマスコミや普通のサラリーマンの考える「バブル期」や「高度成長期」のイメージというのは、社会の実態からかなり遅れていることが多い。ジュリアナ東京をバブルの産物と考えるようなものである。だいたい1960年代にJALの飛行機を重用していた人は社会でも限られた層であったことは否めない。当時に海外に行くのは特別のことであった。そういう時代にJALの国際線で世界を飛び回っていたり、国内線の飛行機を常用していたひとはもう70歳以上で、大してJALの再建のために盛んに利用できる層でもない。だから、1960年代のことばかりを強調しても、JALの宣伝としては意味がないだろう。
まあ1970年代、もっとはっきり言えばバブル期以降の鶴丸のイメージを強調して宣伝した方が、クラスJや国際線ビジネスクラスの主たる顧客である40代50代のオジサンに訴える効果があるだろう。歴史に対する一種の偽りの宣伝である。
くりかえそう。
「高度成長期のサラリーマンは日本でも海外でもゴルフと社用接待」
という過去の認識は実はバブル期以降の事実に基づくものであったりする。素人は1997年の山一証券破綻をバブル崩壊の象徴と勘違いしていたりする。マスコミもそういうイメージの動画ばかりを流すから刷り込まれてしまうのである。

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