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民主党案では大都市住民は得しない ~高速道路無料化に関するマスコミ報道は誤りだらけ [交通]

民主党が高速道路無料化政策を挙げていることは、参議院選挙のころはあまり知られていなかった。が、ガソリン値下げ隊(すなわち暫定税率廃止)の運動と両輪となって、今では国民に広く知られている。地方を中心とした広報活動が効を奏した形である。
だが、大都市の高速道路の扱いや、残る有料区間の運賃収入の扱いなどけっこう誤った報道が為されている。
まずは根本史料として、3月25日に民主党が決定した高速道路政策大綱の全体を見てみよう。

1.無料化の目的・効果 (1)生活コスト・企業活動コストの引き下げ  無料化により、最大2.5兆円の国民負担の軽減が可能となり、物流コストの低下などを通じ、家計の消費増や企業の設備投資・賃金引き上げなどに波及すれば、内需拡大に繋がる。  また、高速道路の利用や一般道の渋滞緩和で国民の時間コストを大幅に削減することができる。 (2)地域活性化  高速道路が「生活道路」「地域道路」として利用できるため、地域間交流の活性化が期待できる。同時に都市との交流コストが大幅に引き下がり、地域産品の需要地への進出拡大、地域の観光産業の活性化(SA、PAの活用を含む)、地価の安い地域への企業進出などが期待できる。 (3)温暖化対策  「渋滞の一般道・ガラガラの高速道路」をもたらしているのは高い高速道路料金である。無料化により、一般道の交通量の一部が高速道路に移行すれば渋滞が解消・緩和されることから、CO2の発生が抑制できる。 (4)「ムダづかい」の根絶  一般道の渋滞を解消するためのバイパス道路建設などが各地で見られるが、現在既にある高速道路を有効に活用することによりバイパス道路建設を抑制でき、国・地方の財政負担の軽減に繋がる。 <参考>高速道路無料化の経済効果 国土交通省国土技術政策総合研究所(国総研)の報告書における便益 費用便益分析(1*)による便益→約2兆7000億円 消費者余剰アプローチ(2*)による便益→約7兆8000億円(政府施策(3割引)の 便益(1.7兆円)の4.6倍) (1*)「費用便益分析」…国交省が道路整備事業の費用対効果分析に一般的に用いる手 法で、「走行時間短縮便益」「走行経費減少便益」「年間総事故減少便益」の3便益 の合計からなる。 (2*)「消費者余剰アプローチ」…政策評価モデルで社会的便益を求める手法であり、 「費用」と「供給量」の関係を示す需要曲線から利用者便益を求める。 2.施策概要 ○現在、高速道路会社6社が管理する高速道路は原則として無料とする。 ○実際の無料化にあたっては、首都高速・阪神高速など渋滞が想定される路線・区間などについては交通需要管理(TDM)の観点から社会実験(5割引、7割引等)を実施して影響を確認しつつ、実施する。 ○無料化後の高速道路は道路法上の「一般国道」の「自動車専用道路」とする方向で検討する。 ○今後の高速道路整備は、整備の必要性等を十分検証した上で、国の一般財源により行う。 ○社会実験として収受する料金は一般会計の収入とし、無料化後の高速道路の管理費用は、当面の間、その収入で賄う。 ○日本高速道路保有・債務返済機構(役職員:90名)は廃止する。雇用には十分配慮する。 ○高速道路無料化にあわせて、インターチェンジの増設や技術の発展度合いに応じて将来的には電気自動車用充電施設の設置等を行い、新産業の振興並びに地域の活性化も図る。 3.無料化による財政負担 ○保有機構が抱える債務35兆円は、無料化開始時点で国が承継する。 ○債務承継による国の財政負担(合計1.26兆円) 元本の償還…承継債務を順次国債に乗り換え、その後は国債償還の一般ルールである60年償還ルールに基づき償還する。よって、毎年度承継額の1.6%を一般会計から国債整理基金特会に繰り入れる。  35兆円×1.6%=0.56兆円   利子の支払…承継元本に金利(H21=2.0%)を乗じる。  35兆円×2.0%=0.7兆円 ○別途、首都高速会社、阪神高速会社、本四会社に対する出資分を自治体に償還する必要有り。 4.道路会社6社の取り扱い ○6社を統合し、当面の間、以下の業務を担当する。 (1)高速道路等の管理業務 (2)新設を含むIC,サービスエリア(SA,PA)を軸とした地域開発 (3)長大橋など高規格道路の企画・設計・建設 (4)道路会社の職員の再就職支援 ○(1)~(3)の業務については、国以外に対する営業活動を認める。 ○一定の期間を経過後、統合会社を上記(1)~(3)の業務ごとに分割・民営化する。 ○上記の実施に当たっては、道路会社の職員の雇用に十分配慮する。 5.論点 ○首都高速、阪神高速の株主である自治体(12都府県市)の理解 ○競合交通機関への影響及び交通弱者に対する配慮

注目すべきは以下の部分である。
○現在、高速道路会社6社が管理する高速道路は原則として無料とする。 ○実際の無料化にあたっては、首都高速・阪神高速など渋滞が想定される路線・区間などについては交通需要管理(TDM)の観点から社会実験(5割引、7割引等)を実施して影響を確認しつつ、実施する。 ○今後の高速道路整備は、整備の必要性等を十分検証した上で、国の一般財源により行う。 ○社会実験として収受する料金は一般会計の収入とし、無料化後の高速道路の管理費用は、当面の間、その収入で賄う。

第一に注目すべき点は、都市高速の扱いである。
首都高速・阪神高速の会社組織が西日本・中日本・東日本道路会社と共に捉えられ、解体されるのである。名古屋高速が対象とされていない理由は、国が筆頭株主でなく、地元の自治体の出資のためで、田舎の道路公社と同じ扱いとされているようである。
つまり料金を取り続けるにしても、交通の実態に合わせたものに料金制度は変わるということだ。中央道の均一区間からの連続として、調布~新宿で1300円という法外な価格を取られることはなくなるだろう。

第二に有料区間としてどこが残るかという点である。
「首都高速・阪神高速など渋滞が想定される路線・区間など」
は直ちに無料化されることはないのである。交通需要との関係だから、大都市の高速が無料だと大渋滞するのは当然だ。有料のままとすることは目に見えている。
重要な点は「など」の二回の使用だ。
「渋滞が想定される路線・区間」
であれば、首都高速・阪神高速以外も無料化する必要はないのである。恐らく通勤割引や休日特別割引の適用外の大都市近郊区間は有料のままであろう。
さらに高速1000円の騒動で大渋滞した名古屋周辺も無料化されないだろう。だいいち初乗り800円で割り引きも渋い名古屋高速が有料のままでは、東名阪道の名古屋環状区間や伊勢湾岸道などに今以上に車が集中して、名古屋高速を通る通過車両(あまりないとは思うが)は皆無となって、名古屋高速の収入は激減する。新名神が伊勢湾岸道に直結するまでは、毎週末の渋滞名所の西名阪道の四日市付近も無料化されないだろう。
休日の渋滞名所として定着してしまった、和歌山県内の旧海南湯浅道路などの2車線高速も無料化されない。現在完成二車線から苦労して四車線化工事をしている最中である。
北九州・福岡近郊も厳しいものがある。だいたい自治体系の道路会社運営の都市高速がある地域で一般高速道路を無料化するというのは無理な話だ。有料の都市高速を造る道路需要がある所では、一般高速は有料のままとするのが適当だし、地方自治体の財政を悪化させないためには、これらの道路公社への配慮が必要だ。
さらに、
「渋滞が想定される路線・区間など」
という表現になっているのだから、他に理由があれば無料化する必要はないのである。
本四架橋などに関しても無料化しないという選択はあろう。さすがにかかったコストを考えれば少しでも料金収入を得たいからである。他の区間でも恵那山トンネル、関越トンネルなどは有料のままだろう。建設費、維持費共に大きいし、周囲の道路に迂回する車で一般道が渋滞するわけでもないからである。

第三に注目すべき点は、残る有料区間の料金収入の扱いである。これらは直接一般会計に投入されて、一般国道の管理運営にも回される。無料化された区間も一般国道と同様に管理され、有料区間の収入で維持管理費をまかなうことになる。
要するに大都市の道路収入で地方の道路の維持費をまかなおうという話だ。ここまで地域間の再分配を進めるのだから、民主党は地方ほど伸びるはずである。

これらの点がしっかり報じられれば、民主党案は非現実的との自民党・国土交通省の反論はけっこうかわせる可能性がある。第三の点で、道路管理の財源がなくなるわけではないからである。
だが、民主党の党略としては微妙な面がある。けっきょく身近な近郊の高速が完全無料化されないならと、東京近郊の住民からは大して支持されない。そうすれば、大都市で勝てなくなるからだ。

マスコミにも民主党案の以上の特徴をしっかり報道してもらいたいと思う。
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コメント 4

社会主義民主党の愚策

速道路を無料にするには、毎年約3兆円の財源が必要といわれる。
毎年3兆円あれば、地球温暖化対策などのもっとまともな政策ができるはず。
無料により乗用車が増加すれば、排ガスの二酸化炭素の増加により地球温暖化を加速させる。
高速道路を使わない人の税金を投入してはならない。現状の受益者負担が最良である。
税金で運営するということは、国営と同等でありJRをかつての国鉄に逆戻りさせるようなものである。そして、民営化によるサービス向上、効率向上および創意工夫はなくなる。
左翼政党・社民党と連立を組む社会主義的な民主党の考える社会主義政策であり、決して容認できない。

by 社会主義民主党の愚策 (2009-07-08 12:03) 

東雲のミネルヴァ

なるほど、現在の国直轄国道は社会主義の政策ですか?

アメリカのインターステイトハイウェーもドイツのアウトバーンも社会主義とはすごい評価ですね。
by 東雲のミネルヴァ (2009-07-08 23:52) 

通りすがり

首都圏などの大都市圏では、自動車保有率は低いです。自動車がなくても生活できるし、保有による経済的負担の方が大きいです。
よって、例え高速道路無料化が大都市圏で実現されなくても、票には大した影響はないでしょう。
むしろ高速道路1000円で予期せぬ渋滞に巻き込まれて、こうした高速道路値下げ施策に疑問を持ち、反対している人が多いから、逆にこのブログで書かれていることをしっかりと主張したほうが、大都市圏では民主党の票につながるような気がします。
by 通りすがり (2009-07-11 20:14) 

東雲のミネルヴァ

>>通りすがりさん

なるほど、ちゃんとこの件を民主党はPRした方が
「政権担当能力がある」
ということで、票になるということですか。参考になります。

ただし自動車保有率の低さと都市部の票の関係はやや疑問です。
単身者はともかく、東京近郊でも家族持ちなら(子どもの有無は関係なく)車は1台は持っていますよ。一軒家なのに車庫のない家は本当に珍しいし、家族用のマンションで戸数分かそれ近くの台数の駐車場がある所で、ガラガラという所はそんなにありません。ただし多くはサンデードライバーで恐ろしく車の走行キロは少ない人は多いでしょう。
これらの人たちは高速道路問題に無関心ではないでしょう。
(都心に住んでいて、いつもタクシーは使い放題という経済的立場にある人は別でしょうが)
そもそも新車は売れなくなっても、国内の乗用車が減ったわけではありません。最近は不況で商用車が減少に及んでいますが、乗用車の台数は減っていません。使用年数が増え、中古車が売れているだけです(昔は10年以上経った中古車は売り物にならなかったのに、今は普通です)。

ただし東京周辺は地方より単身者比率は高いし、そういう人たちは車をあまり持っていません。また生活に必須というほどではないので、高齢者は真っ先に車を手放すでしょう。地方では単身者も車を持っていますし、高齢者も車を手放せません。
こういう所で自動車保有率の差が出ているのでしょう。
とはいえ都心の単身者は投票率が低いし、ここでは関係ありません。高齢者は都会でも地方でも自分で車で遠出せず、こういう問題で投票先を決めたりはしない。
つまり、どちらも民主党の票に関係しないのです。

けっきょく高速道路問題で与野党が票を狙っているのは子育て、中年層なので、けっこうこの論議は票の動向に影響を与えるものと考えています。
by 東雲のミネルヴァ (2009-07-12 22:23) 

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