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ヒースロー空港論2 [空港]

成田空港の発着スロット(殊に発着機材・航続距離の制限のない第一滑走路のもの)は、世界中の航空会社が欲しがっているものであり、週1便であっても乗り入れたがっている航空会社は多い。
それだけ潜在需要があり、ビジネス需要も多く、アジアの入り口として、地理的にもハブ空港に最適だからである。しかしながら多くの航空会社は自国との間の便を精一杯運航するのみであり、NW・UAのような贅沢な運用は他社、アメリカ以外の航空会社には望み得ないものである。

欧州で成田に相当、あるいはそれ以上にスロットの貴重な空港はロンドン・ヒースロー空港である。利用者数では年間6000万人を超え、世界三位を誇っている。アトランタ・シカゴ(一時ダラス=フォートワース空港は良い順位に行っていたが、アメリカン航空以外の大手がダラスハブを縮小したこともあって、衰退気味である)はこれを越える利用者数を誇るが、航空会社のハブアンドスポーク戦略によって、多くの利用者が乗り換えているだけであって、本来的な需要は乏しい。世界最大の国内線空港である羽田空港と並んで、世界トップの空港と言っていい。
しかしながら、イギリス政府は自国の航空会社(BAとVS)の保護のために、大西洋路線に対して長い間厳しい制限を課してきた。すなわちアメリカ合衆国との間を結ぶ路線は英米の各2社のみに伝統的に許されてきたのである。もとはパンナムとTWA、BOACとBR(ブリティシュカレドニアン航空)だったが、業界の再編により、現在はUAとAA、BAとVSがその権益を独占してきた。この他のDL、NWなどの航空会社は、ロンドンでもガトウィック空港に発着しているが、都心へのアクセス、ヨーロッパ内路線(中近東、アフリカなどにはガトウィックの方が便利だが)への乗り継ぎなどに不利である。
この権益は4社にとってドル箱であり、これだけを売却しても数千億円に相当するほどの価値を持ってきた。
それが近年のオープンスカイの流れの中で、米系の他社に開放されることとなった。NWはシアトル線やミネアポリス線など、AAやUAとは異なる新機軸を開拓している。

本来はUAはパンナムの権益を受け継いでいるので、実はロンドンから自由にヨーロッパ各地、中近東方面の路線を展開する権利を有している(昔はパンナムはヨーロッパ内の幹線を、1~2時間間隔のボーイング727使用のシャトル便の形で運航していた)のだが、やはりアメリカの航空会社が、欧州各国の会社に伍して欧州内路線を運航するというのは、営業上も不利な面があり、現在はロンドンからひたすらアメリカ各地への便を運航することに徹している。
この辺りは東京でのUA・NWの戦略とは異なっているが、それは大西洋と太平洋の距離の差によるものである。大西洋の旅客需要と便数はそれだけ多いのである。ロンドン発着の路線だけでも、ニューヨーク行きが各社合わせて30往復以上、ワシントン行きが11往復、ボストン行きが7往復(これでさえ東京~NY以上)も運航されているのである。
スロットには基本的に短距離・長距離路線の区別はない(成田は暫定滑走路枠がある)が、同じ便数なら欧州行きの短距離路線より長距離路線を飛ばした方が売り上げ、利益が巨大だからである。
それに大西洋の旅客数が太平洋に比べてあまりに巨大なため、アメリカのハブ空港からはわざわざロンドンで乗り換えなくても、直接ヨーロッパの各都市に直行便が運航されているからである(たとえばDLはニューヨークからニース、シュトゥットガルト、ジュネーブといったクラスの都市に767を飛ばしている)。日本からでは、そんな都市に直行便を運航しても旅客数が限られていて営業的に難しいが、大西洋線では可能である。
ソニーのストリンガー会長兼CEOは、NYの米国本社から毎週のように家族の住むイギリスに帰っているようだ。日本の観点ではキチガイじみた移動だが、さほどに欧米人の感覚では大西洋は狭い内海なのである。だからこそ膨大な大西洋便の需要があるし、各航空会社はヒースローのスロットが許す限り、多くの便を大西洋に飛ばそうとする。

オープンスカイ協定は、従来の原則をすべて覆してしまう。すなわち、イギリスでは嘗てのパンナムの欧州シャトル便のように、アメリカの航空会社に欧州内の路線を運航される心配をしているが、それはまやかしである。本当の問題はEU内のほかの国の航空会社がロンドンから大西洋路線を運航する危険である。新興会社も考える手であるが、普通はスロットがないという壁で断念を余儀なくされる。所が伝統あるAFたLHなどの航空会社は自国とロンドンを結ぶために、長年かけてイギリス政府と交渉を重ねて増やしてきたスロットをヒースローに有している。これを長距離路線に振ればいいだけである。
737でロンドンから欧州都市に8往復くらいするくらいなら、同じ便数で747でニューヨークに行かせた方がいい。別に自国とロンドンを結ぶくらい、ガトウィックやステンテッド空港発着でも、それほど問題はない。それくらい英仏海峡トンネルを通るユーロスターに任せればいい。日本の地方都市から東京に行く便が羽田発着でも横田でもいいのと同じである。
これはエアバスのA380セールスにとっても重要である。このように長距離路線用にスロットが貴重になってくると、かつての成田のように大型機で輸送力を稼ぐことが必要になってくるからである。

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